研究概要 |
熱帯・亜熱帯果実の大害虫ミカンコミバエなどBactrocera属ならびにチチュウカイミバエCeraritis capitataの雄成虫を特異的に誘引する植物成分について生態学的意義を明らかにした。 1)ミカンコミバエの配偶行動におけるフェニルプロパノイドの役割 ミカンコミバエの雄はハワイの花プアケニケニFagraea berterianaに強く誘引されその花弁を摂食する.花弁組織にはメチルオイゲノールは含まれておらず,類縁体のtrans-3,4-dimethylcinnamyl alcohol(I)とその酢酸エステル(II)を誘引・摂食刺激作用物質として同定した.花の成分を摂取した雄成虫は,直腸腺にtrans-coniferyl alcohol(III)を腺組織に蓄積することが判明した.プアケニケニの花を摂食した雄は非摂食雄と比較して有意に高い交尾率を示し,雌成虫は雄の蓄える花由来の物質を認識して交尾を受け入れていることが判明した.植物に含まれるフェニルプロパノイド成分に対する雄ミバエの強い定位行動は,雌による香りの好みに基づ性選択の結果発達してきた性質と推察された. 2)チチュウカイミバエのレック形成におけるα-copaeneの役割 チチュウカイミバエの雄はセスキテルペン炭化水素(+)-α-copaene に特異的に誘引される.本物質は同ミバエに主要寄主の揮発成分として含まれることから,何らかの生態学的役割を果たしていることが示唆された.雄成虫は配偶行動に先だって寄主の葉の茂みでレックを形成し,そこに雌成虫が訪れ交尾をする.α-Copaeneの存在下で雄を放飼すると,サンプル処理葉の周辺に定着した雄がレック様の分布を示した.同物質の雌に対する作用は知られていなかったが,至近距離における誘引など特異的な行動を誘発することが判明した.ケージ内に雌雄両方を放つと,交尾は処理葉のみで起こった.α-copaeneの雰囲気がレック形成から交尾に至る段階で両性の行動に直接影響を及ぼしていることが明らかとなり,複雑な植生の中で効果的に配偶場所に導くrendezvous cueとして機能している可能性を示唆した.
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