イネいもち病菌が胞子発芽液中に生成する宿主選択的毒素の初期作用点を電子顕微鏡観察による微細構造の面から明らかにしようとした。発芽液から部分生成した毒素をイネ葉に附傷処理後、経時的に観察した。その結果、処理1時間でイネ細胞ミトコンドリアにおいて基質の電子密度の低下、クリステ数の減少などの変性が観察された。しかも、この様なミトコンドリア変性は、処理後の時間が経過しても増加することはなく、毒素の作用が非常に緩やかであることを示した。毒素によるミトコンドリア変性は、イネ葉の表皮、葉肉あるいは維管束のいずれの細胞においても認められた。このミトコンドリア変性は処理に用いたイネ品種と毒素を得るために用いたいもち病菌の親和関係に関係なく認められた。ミトコンドリア以外の細胞内器官には毒素による変性は認められなかった。本毒素をいもち病菌の宿主であるオオムギと非宿主であるシコクビエに処理し、電顕観察するとオオムギのみでミトコンドリア変性が認められた。また、ミトコンドリア以外の細胞内器官には変性は認められなかった。この様なミトコンドリア変性はイネいもち病菌を接種したイネ葉細胞においても認められた。以上の結果は、いもち病菌毒素の作用が宿主特異的であり、その初期作用点はミトコンドリアであることを示した。結論として、ミトコンドリア変性が基本的親和性成立における必要不可欠な現象であることが明らかとなった。
|