研究概要 |
14属2 種の植物についてメチルユ-ジノール(以後,ME)が含まれる部位を調べたところ,花とそれ以外がほぼ半々であった。植物が授粉を促進させるためにMEを生産するというTan(1992)の仮説に従うなら、花以外の部位でのME生産は説明できない。一方、石川(1980)の寄生-共生仮説は、植物が食植者からの被食を免れるためにMEを生産することを示唆する。この場合、MEは有害かあるいは忌避的作用をもつ物質でなければならない。このことより、ミバエ類によるME摂食は、植物が自身の防衛のために進化させたMEを、偶然に摂食したミバエが、寿命をある程度は犠牲にするが、それを補う被食率の低下を得ることが出来たために生じたと考えられる。この仮説に従うなら、ME摂食はオスだけでなく、メスにとっても有利となるはずである。しかし、これまでメスのME摂食はまったく報告されていない。そこで、メスがMEを摂食するかどうかを、カランボラミバエ(Bactrocera carambolae,ミカンコミバエの複合種の1種)を用い実験的に調べた。 約1.5cmの入り口を2個もつスタイナ-型のMEトラップを設置した網室に、約300匹のおすと同数のメスを放した。その結果、羽化16日目後以降、多数のメスが日没直前に一斉にスタイナ-型MEトラップの回りを群飛した。このうちごく少数がトラップの中に入った。しかし、これらのメスはMEに直接定位せず、口吻を突出させる摂食行動も示さなかった。ここでは大部分の成熟オスがMEトラップで除去されたため、メスは未交尾のまま性成熟し、これらのメスが交尾が生じる日没直前にMEに反応しすることが明らかとなった。次に、5匹のメスを入れた直径9cmのプラスチックシャーレを60個用意し、ここに少量のMEを滴下した濾紙を挿入し、メスの反応を調べた。その結果、約25%のメスがこの濾紙に定位した。また、約10%のメスは濾紙を盛んに嘗めた。これらの実験は午前と午後にそれぞれ行ったが、いずれの場合もメスは同じ行動をしめした。したがって、メスはある条件下では、オスと同様にMEを摂食することがはじめて証明された。これらの結果はME摂食の起源が、被食率の低下にあったとする考えを支持している。
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