研究概要 |
1.スペシャリストの抽出(行動学的側面) ミツバチの働き蜂の巣板上での分布は,中央から外側へ日齢の増加に伴って同心円上に拡大する.この性質を利用して,日齢の明らかな個体識別の可能な個体の休息場所の特定を経時的に行ったところ,15%程度の個体が,他個体よりも常に外側にいる傾向を示した.この成因と,それぞれの個体の遺伝的背景については現在調査中であるが,このような観察手法によっても特殊な個体の抽出が可能となると考えられた. 2.個体の遺伝的背景の評価および評価方法の確立 ミツバチの女王蜂が多回交尾をした結果,コロニー内には父親の異なる個体が共存することになるが,これを父親の系統ごとに分類する方法を確立した.各個体から抽出したDNAをミツバチで多型の明らかとなっているマイクロサテライトについて分析し,コロニーごとに多型解析を行った.この結果,試験蜂場内では,コロニー当たり3〜9父系の存在が確認できた. 本方法では特に電気泳動についてアガロースを用いた簡便方法の開発を試み,既報のマイクロサテライトの中から多型の出やすい4つについて分析を行った結果,今のところ2つについては本法での解析が可能となった. 個体の背景としてのコロニー内の遺伝的多型とそれに依存するコロニー内現象 変成王台への巣房の変形を血縁びいきとしての行動と見なし,それに関与する個体の遺伝的背景をコロニーレベルで評価し,行動の結果が父系構成に影響を受けるかどうかを評価した.その結果,多数個体を含む父系で多数の王台が形成され,その他の父系の幼虫は王台となる率が低かった.このことから,血縁びいきの存在が明らかになると同時に,スペシャリストにはよらないが,コロニー内で見られる非ルーチンの特定行動には遺伝的な背景が影響を及ぼすことが示唆された.
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