研究概要 |
リン酸固定力が強く,作物へのリン酸供給力が低い黒ボク土におけるリン酸の可給性を的確に評価することは,わが国の主要畑土壌である黒ボク土における作物の収量向上とリン酸資源の延命を調和的に解決するためには不可欠である.黒ボク土の蓄積無機態リン酸の可給性をリン酸収着に強く関与するコロイド組成(非アロフェン質多腐植質:川渡土壌,アロフェン質多腐植質:十和田土壌,アロフェン質非腐植質:蔵王土壌)を考慮して検討した。 各黒ボク土にリン酸を加えて前培養(3ヶ月間放置)し,蓄積リン酸レベルが6段階(最大10gP_2O_5/kg)の土壌を調製した.EDTA-NaF抽出Pは全土壌無機態Pにおける可溶性蓄積Pを表すと考えられ,同-蓄積Pレベルや同一可給態P(Truog,Bray法)で比較すると,植物(コマツナ,シュンギク)の吸収P量は蔵王>川渡であった.蓄積Pの増加に伴う可給態P含量の増加量を比較すると,Truog-Pはアロフェン質≧非アロフェン質,Bray-Pおよび陰イオン交換樹脂抽出(Resin(C1-型))-Pは非アロフェン質>アロフェン質,Resin(HCO_3-形)-Pはアロフェン質>非アロフェン質であり,抽出法によって傾向が異なったいた。植物吸収P量との関係が両土壌で最も近い可給態Pの抽出法はResin(HCO_3-形)法であった。 以上の結果より,黒ボク土の可溶性蓄積Pの可給性は非アロフェン質に比べてアロフェン質で高く,わが国で土壌診断に広く用いられているTruog法やBray法を基にしたP施用量は,アロフェン質黒ボク土で過大評価となることが明らかとなった.したがって,成熟した黒ボク土へのP資材投入量の決定には,活性Al,Fe含量やリン酸収着量のみならず,コロイド組成を考慮することが不可欠であり,高収量・省資源的な観点からの土壌の可溶性蓄積P(EDTA-NaF抽出P)レベルは,アロフェン質黒ボク土では非アロフェン質黒ボク土よりも少なくても良いことが明らかとなった。 黒ボク土の有機態Pの無機化量は,陰イオン交換樹脂を用いて評価したところ,林地表層土では,乾土効果によって有機態Pの約10%が無機化することが明らかとなったが,作物への効果は今後に残された課題である.
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