研究概要 |
本年度はシバ草地の微生物性に重点をおいたモニタリングを行った。造成後6,15年が経過した草地では土壌微生物の生菌数が少なく、糸状菌に対する細菌の割合は低かった。一方、造成後30年が経過している草地では生菌数が多く、糸状菌に対する細菌の割合は高かった。つまり、造成経年数が長くなるという変化は、微生物組成が糸状菌優勢型から細菌優勢型に変わり、有機物の無機化が迅速におこなわれるようになるという変化であると考えられる。他方、低分子有機酸の総量は、6,15年が経過した草地の方が30年が経過している草地より少なかった。古い草地と天然生林の低分子有機酸総量はほぼ同程度であり、乳酸、リンゴ酸、コハク酸、クエン酸などが主要なものであった。また、古い草地の尾根筋では上層と下層の低分子有機酸総量が同程度にあるのに対し、新しい草地や天然生林では上層に遍在していた。つまり、古い草地では透水性・排水性の向上によって、上層の養水分が下層まで浸透できるために起こると考えられた。また、微生物の生菌数及び低分子有機酸の総量は、気温が低くなるにつれて少なくなる傾向がみられ、低分子有機酸の量や組成は微生物の活動と密接な関係があることが分かった。 これらのことから、古い草地は新しい草地や天然生林に比べ、水溶性の養分そのものは少ないが、上層と下層の分布の差が小さいことから、5〜20cmの範囲での養水分の循環がうまく機能する安定な状態であることがわかった。 耐水性団粒の形成には、粘土鉱物の凝縮に際して、植物根に由来する土壌有機物の添加や微生物活動による有機物の放出などによって補強されることが必要である。牧草の根は密度が高く耐水性団粒をつくるのに効果的である。古い草地でみられたように耐水性団粒が発達することによって、通気性・排水性や保水力が高まり、微生物の住みかの多様化に加えて、有根物からの養分供給も安定した。低分子有機酸は、シパの根から分泌されるものと微生物の死菌体から放出されるものとがあり、いずれもシバ草地の安定化に寄与すると考えられた。
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