環境ストレスに対する耐性植物の育成は、変化する地球環境と人類の生存にとって重要な課題の一つである。本研究は世界の40%を占めると言われている石灰質土壌や温暖化・砂漠化に伴って今後増大が予想される塩類集積土壌等の高pH土壌でも生育可能な植物の育成を目的とする。 本年度は当初コマツナで実験を計画したが、それよりも高いアルカリ耐性を示す植物Artemisia capillarisがみつかったのでそれを実験材料とした。この植物は中国の黄土高原など炭酸カルシウム性のアルカリ土壌に自生するキク科の植物で、この植物が高Ca条件下で生育が可能な機構の解析を試みた。砂質土壌に炭酸カルシウムを0、0.1、0.7、1.3、6.2%添加し、Artemisia capillarisを播種して70日栽培した。その結果、炭酸カルシウム無添加の生育が最も劣り、0.1%、0.7%と生育賀良好となったが、それ以上添加しても生育は変わらなかった。一方、この時の体内Ca含有率は炭酸カルシウムの添加量が増加するにしたがって増加するが、特に6.2%添加区の葉ではCa含有率が約3%となった。また、Ca含有率の増加にともなって体内のMgやK含有率は低下し、Caとの間に拮抗作用が認められたが、これらの欠乏症を呈するような含有率にまでは下がらなく、良好な生育を示した。また、増加した体内のCaの存在形態について検討したところ、このArtemisia capillarisは体内の遊離Ca含量が比較的多く、炭酸カルシウム無添加でも体内Caの約30%は遊離態で存在し、6.2%添加区の葉では約40%が遊離態Caであった。このことから、Artemisia capillarisは体内に取り込んだ過剰のCaを無害化する機構を有するものと考えられた。
|