研究概要 |
トルエンとビフェニルの中間的な化学構造を有するクメンの分解菌Pseudomonas fluorescens IP01株はトルエンやクメンを唯一の炭素源・エネルギー源として生育できるが、ビフェニルでは良好に生育できないという生育基質特異性を持ち、これはCumDの反応基質特異性に起因することが示唆された。このことから本研究ではIP01に人為的及び自然誘発的な変異を導入することでIP01株の生育基質特異性の改変を試みた。 CumDはアライメント結果からSer^<103>,Aap^<224>,His^<252>を活性中心とするserine hydrolaseと考えられた。それら3つのアミノ酸をAlaへと変換した3種の改変酵素のクメンのメタ開裂物質に対する活性を調べた結果、変異を加えたCumDの活性は、いずれも変異を加えていないCumDの5%以下まで低下し、これら3つのアミノ酸が活性中心を構成するという仮説が支持された。またCumDの基質認識に関与している可能性のあるアミノ酸を他のアミノ酸に置換することでビフェニルのメタ開裂物質、及びクメンのメタ開裂物質に対する活性がどの様に変化するのかを調べた。その結果、IIe^<256>をTrpに変換した場合、及びTrp^<143>をPheに変換した場合、ビフェニルのメタ開裂物質に対する活性の上昇が見られたため、これらはCumDの基質特異性を拡大・改変し、HOPDAに対して活性を持つように変化させる際のキ-となるアミノ酸である可能性も考えられた。またVal^<227>をIIeに変換することによりHOMODAに対する活性が上昇したことから、Val^<227>は活性中心に近傍に位置し、基質認識にも何らかの機能を果たしている可能性が示唆された。 IP01株をビフェニルで馴養していくことで自然誘発突然変異を導入し、ビフェニルを生育基質として利用できる株の取得を試みた。馴養20週目から、ビフェニルを唯一の炭素源とする生育が馴養前と比べて向上したと考えられる株が出現し、以降42週目までにこうした株を25株取得した。この中から5株を選択し、これらについてはCumDに変異が導入され基質特異性が変化したことが予想されたため、各変異株のメタ開裂物質加水分解酵素遺伝子のシークエンスを行ったが、遺伝子変異は確認できなかった。 ビフェニルまたはクメンを唯一の炭素源として加えた無機培地中での生育を、馴養前のIP01株とこの5株とで詳細に比較したところ、これら5株においてはクメン代謝系酵素の活性、あるいはその誘導機構に何らかの変化が起こったものと予想された。
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