本研究は子嚢菌類の糸状菌Aspergillus nidulansにおいて当研究室で単離された4つのキチン合成酵素遺伝子chsA、chsB、chsC、chsDの菌糸生長、分化における機能分担を解析する目的で行われたものである。これらのキチン合成酵素遺伝子の内、単独遺伝子破壊ではその破壊株において表現形に変化が見られなかったchsA、chsCの二重遺伝子破壊株を作製しその分生子形成効率を測定したところ、野菜株の0.1%以下にまで低下していた。さらにこの破壊株の生育は高濃度の塩、浸透圧安定化剤、SDS、キチン結合色素、キチン合成酵素阻害剤に感受性を示し、菌糸の形成においてもこれらの遺伝子産物が機能を持つことが推定された。さらにこれらの二重破壊株の分生子柄、分生子の構造を光学顕微鏡下で観察したところ、分生子の形成効率が野生株の10%程度にまで低下するchsa、chsD二重遺伝子破壊株においては正常な形の分生子柄と分生子が観察されたが、chsA、chsC二重遺伝子破壊株においては分生子柄の構造に異常が見られた。これらのことからchsA、chsC遺伝子産物は菌糸生長、分生子柄の形態形成、分生子形成において重複した機能を持つことが推定された。一方、chsA、chsB、chsC、chsDの各遺伝子のORFにEscherichia coli由来のlacZ遺伝子を融合淡白の型で繋いだキメラ遺伝子をA.nidulans内に導入し、in situ染色法によりその発現部位を検討したところchsAは細胞内での発現量が少なく主に分生子柄で発現していたのに対し、chsB、chsC、chsDは菌糸、分生子柄とも発現が見られたが特に分生子柄での発現が強かった。これらの結果は、chsA、chsB、chsC、chsD遺伝子産物ともに分生子(柄)形成に機能を持つこと、またchsB遺伝子産物が単独で菌糸生長に重要な機能を持つという推定を支持する結果となった。また、A.nidulansの染色体よりAspergillus fumigatusのchsE PCR断片のホモログを取得したところ新規のキチン合成酵素をコードすることが明らかとなった。
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