酵母は単細胞でありながら、高等真核生物と類似の遺伝子を持っていることから、遺伝解析が可能な真核生物のモデル系として研究されて来ている。しかし、その細胞の微細構造の研究については、あまり進んではいなかった。最近、急速凍結置換固定という固定法が開発された。この方法は酵母細胞内の微細構造的保持ばかりでなく、蛋白質の抗原性の保持にも優れており、蛋白質の局在を示す免疫電子顕微鏡による研究に最適な固定法である。 急速凍結置換固定した細胞は、二通りの包埋方法を行った。 1) Δpro(糸状菌(Rhizopus niveus)の菌体外酵素Aspartic proteinase-I(RNAP-I)のプレプロ配列からプロ配列を欠失した改変体)を過剰発現させた酵母細胞を液体窒素冷却下の液体プロパンで急速凍結し、4%オスミウム/アセトン(-80℃)で置換後、スバー樹脂に包埋した。切片は1次抗体としてanti aspartic proteinase antibodyで処理し、2次抗体として金コロイド抗ウサギ抗体で標識した。細胞内には小胞体が蓄積し、電子密度の高いΔproは小胞体内と核膜に局在していた。 2) 外糖鎖修飾の過程を調べるため、バナジン酸耐性変異株中からインベルターゼの分子量低下を指標として、9相補群に属する変異株を単離した。その中のVRG4遺伝子はゴルジGDP-mannose transporter(膜貫通蛋白質)をコードしている。myc-タグを付けたVrg4蛋白質を過剰発現させた細胞を急速凍結固定し、エタノールで置換後、LR White樹脂に包埋した。切片は1次抗体として抗myc-抗体で処理し、2次抗体として金コロイド抗マウス抗体で標識した。Vrg4を過剰発現させた細胞はゴルジ体と小胞体膜が増加していた。Vrg4蛋白質はその増加した膜構造に局在した。 両方法共、細胞は微細構造の保持が良く、免疫反応の活性も高く、蛋白質の局在をはっきりと示す満足すべき良い結果が得られた。
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