真正細菌の遺伝子のほとんどは、主要σ因子(大腸菌のσ^<70>)を含むRNAポリメラーゼ・ホロ酵素によってプロモーターが認識されることによって、転写が起る。先に申請者らは、ほとんどの真正細菌が複数個の主要型σ因子遺伝子をもつことを示すとともに、大腸菌には第二の主要σ因子として、定常期に特異的なσ^<38>(rpoS遺伝子産物)が存在することを明らかにした。本研究では、定常期に特異的な第二の主要σ因子(σ^<38>)によるプロモーターの認識についての解析を進めた。また、ラン藻(Synechococcus sp.PCC7942)のもつ4つのrpoD相同遺伝子の産物についてのσ因子活性の確認とプロモーター特異性の解析、さらにラン藻のもつサーカディアンリズム(概日性リズム)と転写装置との関連についての解析を進めた。これらの成果は次のようなものである。(1)大腸菌の主要型σ因子、σ^<38>によるプロモーター認識についての解析を行った結果、従来よりσ^<70>をもつホロ酵素で言われている-35領域の配列は、σ^<38>については必ずしも必須ではないことが示された。(2)ラン藻の4つのrpoD相同遺伝子の産物については、いずれも大腸菌の精製コア酵素に対して特異的な転写開示能を付与できることが示された。また、rpoD1〜rpoD4についての遺伝子破壊株の作成と解析を行った。(3)ラン藻のrpoD遺伝子の欠損によって、サーカディアンリズムに影響が出ることが示された。このことはラン藻におけるサーカディアンリズムの発生機構に転写装置が深く関わっていることを強く示唆している。
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