植物細胞でのタンパク質の液胞への輸送機構の解明に、従来用いてきたタバコ培養細胞へのT-DNAによる形質転換系では解析可能になるのに1カ月以上の長時間を要した。サツマイモ液胞貯蔵タンパク質スポラモン融合遺伝子を組み込んだアグロバクテリアをタバコ培養細胞に感染させた際、転移したT-DNAの一過的発現によってスポラミンの液胞への輸送を効率良く追跡できることを見出し、作成した変異前駆体の植物細胞での挙動を短時間の内に解析できるようになった。植物細胞での液胞輸送シグナルとして、前駆体のN末端プロペプチド(NTPP)とC末端プロペプチド(CTPP)が同定され、前者にはNPIRに類似した配列が保存されているが、CTPPに一次構造上の保存性はない。我々はNTPPとCTPPによるタンパク質の液胞輸送はWortmanninに対する感受性が異なり、両者には別の識別機構が作用すると推定している。スポラミン前駆体のNTPPを成熟型C末端に移した変異前駆体(SPO-NTPP)でもスポラミンは液胞へと輸送された。しかし、スポラミン前駆体と異なり、SPO-NTPP前駆体のNPIR配列にlle→Gly変異を導入し(SPO-128G)しても液胞へと輸送され、その液胞輸送はWortmanninで強く阻害された。これらの結果は、NTPPは分子のC末端でも液胞輸送シグナルとして機能するが、C末端NTPPへのlle→Gly変異の導入によってCTPP様液胞輸送シグナルとして機能するようになることを示唆した。スポラミンの液胞輸送は還元剤DTTによって強く阻害された。スポラミンの4ヶのCysを全てAlaに変えてジスルフィド結合形成を阻害しても液胞へと輸送され、その液胞輸送はDTTで阻害されたことから、液胞輸送シグナルの識別装置がDTT感受性を示すと推定した。シロイヌナズナのCysに富んだEGFモチーフ反復構造を持つレセプター様分子cDNAをプローブとしてタバコcDNAクローンを同定した。
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