植物の液胞は多くの栄養組織細胞では、細胞容積の大部分を占めるほど発達して種々の化合物を分解してリサイクルするための機能を備える。しかし、栄養貯蔵組織の細胞では液胞は多量に合成される貯蔵タンパク質の集積部位ともなる。有用タンパク質の植物での大量集積をはかる上で、タンパク質の貯蔵組織細胞の液胞への選択的輸送機構の解明は必須である。 我々は、サツマイモ塊根の液胞貯蔵タンパク質であるスポラミンをモデルタンパク質として、そのcDNAのタバコ培養細胞での発現系を用いて液胞への選別輸送機構の解析を進め、スポラミン前駆体のN末端プロペプチド(NTPP)中の、NPIR配列が液胞輸送シグナルであり、NPIRシグナルを介したタンパク質の液胞輸送は、他のタンパク質前駆体のC末端プロペプチド(CTPP)中にある疎水性アミノ酸に富んだ輸送シグナルを介した輸送とはメカニズムを異にすることなどを世界に先駆けて明らかにしてきた。本研究では、こうした背景とこれまでの実績をもとに、スポラミンの液胞への選別輸送機構の解析を更に進めて下記の成果を得た。(1)スポラミン前駆体のNTPP中の液胞へのNPIR輸送シグナルは、分子のC末端にあっても液胞輸送シグナルとして機能する。(2)タンパク質の植物液胞への輸送には、恐らくポストゴルジコンパートメントに存在するV-type H^+-ATPase様の活性が必須である。(3)タバコから小胞輸送系における小胞融合に必須の役割を担うN-ethylmaleimide-sensitive fusion protein(NSF)のホモログのcDNAを植物から始めて単離した。
|