研究概要 |
本研究ではPseudomonas aeruginosaとEnterobacter cloacaeの2種類の菌株のリン酸走化性の分子機構の解明を行った。その結果、大きく2つの成果が得られた。ひとつはリン酸飢餓条件で誘導される高性能のリン酸取込みチャンネル、リン酸特異的膜輸送系(phosphatespecific transport, Pst)が両株のリン酸走化性に関与していることが判明した。ただし、Pstのリン酸走化性における機能は両細菌で異なった。P. aeruginosaのpstオペロン遺伝子の欠損変異株は構成的にリン酸走化性を示した。このことから、P. aeruginosaのPstはリン酸走化性の誘導発現を負に制御する制御因子であることが判明した。一方、E. cloacaeのpstオペロン遺伝子のトランスポゾン変異株はリン酸欠乏条件においてもリン酸走化性を示さなかった。このことから、E. cloacaeのPstはリン酸走化性におけるリン酸センサーか、リン酸走化性の誘導発現の正の制御因子であることが示唆された。E. cloacaeのPstタンパク質(PstS, PstC, PstA, PstB)は大腸菌のそれと90%以上もの相同性を示す。それにも関わらず、大腸菌はリン酸走化性を示さない。おそらく、大腸菌にはリン酸走化性に必須ななんらかの因子が欠けているためにリン酸走化性を示さないものと思われる。この点に着目して、リン酸走化性に必須なE. cloacaeの因子を同定することが今後の課題のひとつである。 P. aeruginosaでは走化性トランスデューサーがリン酸濃度の感知に関与しているという間接的なデータがある。そこで、リン酸走化性トランスデューサー遺伝子を取得する目的でP. aeruginosaの走化性トランスデューサー遺伝子のクローニングを試み3つのトランスデューサー遺伝子を取得した。いずれもアミノ酸の認識を行っているトランスデューサーで残念ながらリン酸の感知に関与しているものはなかった。しかし、今後、リン酸走化性トランスデューサー遺伝子を取得するにあたっての基礎的な知見が多数得ることができた。
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