本研究計画の最終年度にあたる本年度は、酢酸菌の酢酸菌発酵に関与するアルコール脱水素酵素(ADH)にみられる不活性型酵素の生成機構とその生理学的意義に関連して、以下のことを明らかにした。 1)Gluconobacter属酢酸菌の活性型と不活性型酵素の酸化還元電位と比較検討し、不活性型酵素では1つのヘムcの電位が大幅に低下していることが明らかになった。 2)メタノール資化性酢酸菌から活性型酵素とサブユニットIIを分離精製するとともに、精製されたサブユニットIIを別のGluconobacter属酢酸菌から精製されたサブユニットI/III複合体と再構成し、ハイブリッド酵素を作成した。両酵素の種々の電子受容体に対する酵素反応キネティクスとその酸化還元電位を比較検討することで、ADHに含まれる4つのヘムcのうちの一つ(ヘムcII3サイト)がハイブリッド酵素で大幅に変化していることが明かとなった。 3)Acetobacter属酢酸菌を酢酸存在下で生育すると不活性酵素が蓄積される。これを分離精製し、その酵素反応キネティクスを比較検討した結果、一つのヘムcサイト(ヘムcII3)の性質が大幅に変化していることが示された。また、この不活性型酵素の増加にともなって、呼吸鎖の酸化活性が著しく増加していることも明かになった。 4)Gluconobacter属酢酸菌の活性型と不活性型酵素にアルコールからのユビキノンヘの電子伝達反応に加えて、ユビキノール酸化反応が存在することを明かにした。さらに、この活性は不活性型酵素で増加すること、この部位を介した電子伝達反応が本菌のバイパスオキシダーゼ活性に関与することを示唆する結果を得た。
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