(1)D型LDHに関する研究 トロント大学との共同研究により、解像度2.8ÅのL.plantarum D型LDHアポ酵素の立体構造が解明され、既に得られているアミノ酸置換の結果とあわせて、本酵素の活性中心のモデルを構築した。このモデルでは、本酵素のArg-235は、従来のモデルのように基質ピルビン酸のカルボキシル基を結合する役割を担うだけでなく、基質カルボニル基の分極化をも促し、基質結合と水素転移反応の両者を促進する。加えて、酸塩基触媒基His-296に近接するGlu-264残基が、His-296の触媒機能を促進する。そこで、Arg-235、Glu-264、His-296の各変異型酵素の性質をさらに詳細に検討したところ、このモデルとよく一致する結果が得られ、このモデルが妥当であることが結論された。すなわち、酵素の機能改変のための構造的な基盤が得られた。一例としては、この活性中心モデルに従うと、Phe-299は酵素の基質特異性を決定するうえで重要な残基であるが、現在、この残基などの置換を通して本酵素の特異性の変換を試みつつある。 (2)L型LDHに関する研究 L.caseiアロステリックL型LDHに広範なアミノ酸置換を導入し、現在その変異型酵素の特性解析が進行中である。一方、高エネルギー物理学研究所シンクロトロン放射光により、本LDHと高いアミノ酸配列相同性を持つL.plantarumLDH非アロステリック型酵素において、その構造解析に十分耐えうる結晶回折データの収集に成功した。現在、立体構造モデルを構築し、そのリファインメントを進めている。このようなタイプのLDHの立体構造ははじめての知見であり、酵素活性調節機構に重要な示唆が得られるとともに、さらなる解明のための方向が示されることが期待される。
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