葉緑体内で合成されるクロロフィルのフィチル側鎖とカロチノイドや葉緑体外で合成されるセスキテルペンなど、テルペノイド生合成系の多様性があらためて注目されている。ツクシウロコゴケ(Heteroscyphus planus)液体培養細胞に、前駆体として、^<13>Cと^2Hで標識したグリシン、酢酸、2-^<13>C-glycerol並びにglucoseを投与し、生成物のphytyl側鎖やβ-カロチンのNMR解析から以下の、全く新しい知見を得た。1)酢酸は一度分解し、TCA回路、還元的ペントースリン酸回路、glycolic経路を経て、2個の酢酸メチル炭素及びカルボキシ炭素から、酢酸が再構築される。再構築された酢酸は、クロロプラスト内でメバロン酸経路を経て、phytyl側鎖へ生合成されると推定される2)クロロプラスト内では、非メバロン酸経路も存在する。また、培養細胞からクロロプラストを分離し、^3Hファルネシル二リン酸(FPP)及び^<14>Cメバロン酸を投与し、FPPへの転換を試み、FPPがクロロプラスト内で迅速にゲラニルゲラニル二リン酸へ転換することを確認した。一方、葉緑体外で生合成されるセスキテルペンβ-barbateneでは、メバロン酸経路でのみ、合成され、非メバロン酸経路は介在しないことを証明した。その他、以下の点を明らかにした。1)イレギュラーテルペンβ-barbatene及びpinguisane系化合物の生合成過程を証明した。2)cadinane系セスキテルペンへの環化酵素について、酵素とその反応の諸性質を明らかにした。3)cadinane系列のセスキテルペンはcytosolで、bisabolene系列のセスキテルペンはオルガネラで合成される可能性が示唆された。
|