食品内部の構造や成分の状態を敏感に反映する電気物性、力学物性などの測定を行った。また、内部構造と物性との関連、物性間の関係について、物理理論であるパーコレーション理論やフラクタル理論などによる解析を行った。更に、電解質ゲルに関して、内部の電気的状態を反映する膨潤速度の解析を行った。 食品エマルションの誘電率測定を行った所、W/Oエマルションにおいては高周波領域において誘電率が減少するいわゆる誘電緩和現象が観測されたが、O/Wエマルションにおいては観測されなかった。また、誘電率の高周波極限はWagnerの理論およびHanaiの理論によって記述されることが確認された。 高分子電解質ゲルの誘電率測定を行った所、誘電緩和が観測され、ゲル内部において高分子電解質に束縛される低分子イオンの濃度および束縛距離が算出された。 タンパク質の熱凝集ゲルの弾性率の挙動について検討を行った。その結果、ゾル-ゲル転移点近傍においては、パーコレーション理論の適用が可能だが、高濃度領域における弾性挙動はゲル内部の凝集体のフラクタル構造の反映であることが示唆された。得られた見かけのフラクタル次元の値は、光散乱法によって得られた希薄タンパク質溶液のフラクタル次元の値より大きく、ゲルの形成過程においては、凝集体構造の再構成が起こっていることが示唆された。 天然高分子であるキサンタンとキトサンから調製した電解質複合ゲルの外部溶液のpH変化に伴う膨潤過程について検討を行った。最初に、従来からゲルの膨潤速度解析に用いられてきたcollective diffusion modelによる解析を行った所、見かけの拡散係数は、光散乱法により求められる協同拡散係数より、4桁大きかった。このことは、協同拡散係数がゲル網目の揺らぎを反映することから考えて、このゲルのpH応答型膨潤速度は、高分子網目の揺らぎには支配されないことを示している。そこで、ゲル内部の低分子イオンの拡散に基づく膨潤速度モデルを新たに構築し解析を行った所、モデルに含まれる拡散係数が、定常法によって測定した低分子イオンの拡散係数とオーダー的に一致した。このことは、低分子イオンを内部に含む電解質ゲルの膨潤速度解析には、本研究で構築したモデルの適用が可能なことを示唆している。
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