筆者が世界に先駆けて発見した小胞体内腔に局在するシステインプロテアーゼ、ER-60プロテアーゼの構造機能相関を分子レベルで明らかにする目的で研究を行い、平成9年度は以下の研究実績を挙げた。 1)ER-60プロテアーゼは既知のC末端小胞体リテンションシグナル、KDELと類似のQEDL配列を有している。このQEDL配列がリテンションシグナルであるか否かを明らかにする実験を行った。動物細胞発現用のベクターに、ラットER-60プロテアーゼ遺伝子をサブクローニングし、このプラスミドをCos-1にトランスフェクションし一過性の大量発現に成功した。さらに、QEDL配列に変異を導入した遺伝子を作製し同様に発現させ、その挙動を共焦点レーザ蛍光顕微鏡観察と[^<35>S]メチオニン標識後のパルスチェイス実験により解析した。野生型のER-60プロテアーゼは小胞体に局在し、細胞外へはほとんど分泌されなかったのに対し、QEDL配列を欠いた変異タンパク質はゴルジ体へ輸送され、さらに細胞外へ分泌されていることを明らかにした。また、QEDL配列をリテンションシグナルと無関係な配列であるAAGLに代えた変異タンパク質も分泌されることを明らかにした。以上の結果から、C末端QEDL配列が小胞体リテンションシグナルとして有効であることが確認された。 ER-60プロテアーゼは、分子内にプロテアーゼの活性中心と考えられる特徴的なCGHCモチーフを2組有している。平成8年度にはcDNAを発現ベクターpET21-b(+)にサブクローニングしたプラスミドを用いて、大腸菌BL21(DE3)で活性型のリコンビナントヒトER-60プロテアーゼおよびCGHモチーフのC末端側のシステイン残基をセリンに代えたりコンビナントタンパク質の大量発現に成功した。しかしシステインをアラニンに代えた変異タンパク質は本宿主大腸菌では発現しなかった。平成9年度には、宿主大腸菌を変えてアラニンに代えた変異タンパク質の発現に成功した。本タンパク質にはプロテアーゼ活性は検出されず、CGHCモチーフのC末端側のシステインが活性中心のシステインであることが確認された。
|