ソーマチンはショ糖に比べてモル比で約十万倍の強い甘味を示すタンパク質であり、その甘味は特有で、持続性を示す。ソーマチンは市販のソーマチン原料をイオン交換クロマトグラフィーならびにG75セファデックスクロマトグラフィーにより精製し、電気泳動的に純粋の標品を得、それを用いて研究を進めた。甘味活性の測定は官能テストを用いた。 ソーマチンの熱安定性が加熱時のタンパク質濃度に依存することを見い出したが、その原因究明研究をおこない、それがシスチン残基のβ脱離反応に伴う遊離SH基生成に起因していることを明らかにした。すなわち、ソーマチンは本来遊離のSH基を分子内に有しない。しかしこれを加熱するとシスチン残基のβ脱離反応が生じ、遊離SH基が生成する。この反応は通常塩基性条件下で生じるとされているが、本実験でソーマチンでは中性条件下でも生じることが明らかとなった。この新たに生成したSH基が分子間ジスルフィド結合を誘起し、加熱凝集体の形成を引き起こすことが明らかとなった。これに伴い、甘味活性は消失することを明らかにした。 化学修飾法を用いて、ソーマチンの甘味活性発現に関与する特定残基の同定、ならびに、それらの空間的配置、ならびに相互の関連について、立体構造とも関連づけながら甘味活性発現機構を明らかにすることおこなった。これまでのアルギニン、リジン、およびチロシン残基の化学修飾実験から、それぞれ一ないし二残基が甘味活性に関わっていることが明らかになっている。しかしそれらの残基の修飾による活性の低下が活性中心に対する直接的な影響かそれとも関接的な影響かについてさらに検討を必要としている。そこで、リジンに関して種々の修飾試薬を使い、修飾実験を行い、その効果を比較検討した。その結果、リジン残基が活性に直接関わり、様々な部位のリジン残基が活性発現に同等な寄与をしていること確認した。このことは、甘味活性発現に関与する部位は、分子内の特定の箇所にあるのではなく、広い領域が甘味活性発現に関与することを示す知見を得た。
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