本研究の目的は、動物組織を構成する各種細胞の多様な機能の制御に深く関係すると考えられるカルシウム依存性のタンパク質修飾酵素であるトランスグルタミナーゼ(TGase)の生理機能を分子レベルで理解し、食環境に起因する多様なシグナルが本酵素の機能を介した生体制御とどの様に連係しているかを解明することである。 1.TGase誘導時における細胞内作動の解析-ヒト前骨髄性白血病細胞株HL-60はレチノイン酸で、ヒト肝癌細胞株HepG2はインターロイキン-6で、それぞれTGaseが顕著に誘導される。これらのTGase誘導時に本酵素の細胞内作動が誘導に対応して高進しているか否かを知る目的で、TGaseが触媒する^<14>C標識メモルアミンの細胞内タンパク質画分への導入を培養細胞系で行なわせ、その導入量を測定した。いずれの細胞でもメチルアミンの導入量は、TGaseの誘導時と非誘導時で変わらなかった。これらの細胞内で作動するTGase活性の量は、誘導時においても未知の抑制機構によって、非誘導時と同じレベルに維持されているらしい。 2.動物肝抽出液中のTGase基質タンパク質の検索-TGaseの生理機能を理解するうえで、真の基質タンパク質を知ることは、重要である。各種動物肝抽出液に塩化カルシウムおよびビオチンカダベリンを加え、内因性TGaseによるタンパク質へのビオチンカダベリン導入反応を行った。反応生成物をアビジンゲルによるアフィニティークロマトグラフィーにかけ、TGaseの基質候補タンパク質を得た。これらのタンパク質は、SDS-PAGEで様々な分子サイズを示した。それらをPVDF膜に移しN-末端部のアミノ酸配列を解析すると、モルモット肝由来の29kDaバンドは、グルタチオンS-トランスフェラーゼのサブユニットと、ラット肝由来の38kDaバンドは、グリセルアルデヒド3ーリン酸脱水素酵素のサブユニットと、それぞれ配列が一致した。
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