リゾチームのグラム陽性菌菌に対する抗菌作用における酵素活性の役割を明らかにし、また、グラム陰性菌に対する抗菌作用を改善するため、遺伝子工学的手法によりリゾチームの触媒活性部位である35番目のGluと52番目のAspを変異させた変異体(E35A-Lz、D52S-Lz)を調製した。また、グラム陰性菌に対する殺菌作用に及ぼす疎水性部位の役割を明らかにするためにリゾチームのC-端129番目のLeuに鎖長の異なる疎水性ペプチド、F-V-P(H3)、F-F-V-A-P(H5)およびF-F-V-A-I-I-P(H7)を結合させた。変異リゾチームはS.cerevisiae AH22で発現させた。酵素活性が消失した変異体(E35A-Lz、D52S-Lz)リゾチームは、グラム陽性菌に対してnativeリゾチームに匹敵する抗菌作用を示した。このことから、リゾチームのグラム陽性菌に対する抗菌作用は酵素作用とは独立に発現することが明らかになった。リゾチームに疎水性ペプチドを挿入した3つの変異体リゾチームは全て75〜80%の酵素活性を有しいた。グラム陰性菌であるE.coliに対する抗菌作用は挿入した疎水性ペプチドの鎖長に比例した。このことはリゾチームの疎水性がグラム陰性菌の抗菌作用に重要な役割を果たしていることを示していた。しかし、F-F-V-P(H5)を挿入したリゾチームの酵素作用がGlu-35をAlaに変異させてと減少した時、E.coli対する抗菌作用が大きく減少したので、疎水性の増加だけでなく酵素作用もグラム陰性菌に対する新規な抗菌活性に重要な役割を果たしているものと考えられた。本研究で得られた最も大きな成果は、リゾチームの酵素作用はグラム陽性菌に対して直接的な役割を果たしているのではないことを初めて示したものである。
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