従来行われている土壌の窒素無機化速度は、培養期間前後の無機態窒素のプールサイズの差をもって、純無機化速度とするものであった。しかし、純無機化速度が同じ土壌においてもかならずしも総無機化速度は一致しない。その原因として、純無機化速度は不動化を考慮していないことがあげられる。本研究で注目する炭素の可給性は不動化に大きく影響するため、総無機化速度を測定することがぜひとも必要であると考える。不動化を考慮した総無機化特性とその規定要因を明らかにするため、竜王山森林試験地の斜面に沿って設けられたトランセクトにおいて、斜面下端から15m間隔で尾根にいたる10地点から採取された土壌をもちいて、同位体希釈法を用い総窒素無機化速度からも解析を行った。純無機化速度には斜面方向で大きな違いがみられなかったが、総窒素無機化速度は斜面下部で大きく、斜面上部の4倍以上の値をとった。斜面上の位置で大きな違いのみられた純硝化速度に対して、総硝化速度にも顕著な違いがみられ、その違いはさらに大きくなった。これらの結果は、斜面上部での大きい土壌C/Nは、斜面上部でアンモニア化速度が小さく、無機化された窒素は豊富な炭素を用いて微生物の不動化を受けることを、斜面下部での小さい土壌C/Nは斜面下部で窒素に対して炭素が不足しており、アンモニア化された窒素がすぐに硝化されるものと理解された。以上のように、土壌の窒素無機化過程を規定する要因として、窒素に対する炭素の相対的な可給性が示された。
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