森林内の樹木個体の成長と生残、種子生産と分散パターンを、御蓋山や田上山などでの測定結果を用いて解析した。御蓋山のナギとイヌガシが優占する林分においては、胸高直径5cm以上の個体の直径成長量データから、林分構造の不均一さと成長との対応を検討した。林冠がナギ雌株かそれ以外により調査区を2状態のサイトに分け、個体数、サイズ、成長量をサイト間、種間で比較した。その結果、イヌガシは、林冠がナギの雌株でないサイトのほうが成長量が大きく、またサイズの大きな個体が存在していた。このことから、イヌガシはナギの雌株以外の樹冠下でより更新の可能性が高いことが示された。ナギについてはサイト間で顕著な差はみられなかった。これらの結果は、耐陰性などの点でナギに競争力は劣るが種子散布力の大きいイヌガシが、種子散布力の小さいナギの種子の供給が少ないナギの雄株のまわりで更新しているという仮説を支持し、両種の共存にナギの雌雄性が大きく関わっていることが示唆された。シ-ドトラップを用いた種子散布様式の測定の結果、ナギの種子は雌株の樹冠下にほとんどが落下することが明らかとなった。イヌガシの種子は、雌株の樹冠下にも多くの種子が落下するが、調査区全体のトラップにわたって種子の落下が観察され、鳥などによって広く種子が散布されていることが明らかとなった。ナギの種子散布力は非常に小さいこと、イヌガシの種子散布力はナギに比べてかなり大きく、イヌガシの種子が森林全体にわたって供給されることが、実際の種子散布様式から示された。
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