樹木個体の成長と生残、種子の生産と分散をもとにした森林の動態解析を、御蓋山や田上山などでの測定結果を用いて行った。御蓋山のナギとイヌガシが優占する森林においては、耐陰性でナギに競争力は劣るが種子散布力の大きいイヌガシが、種子散布力の小さいナギの種子供給が少ないナギの雄株のまわりで更新することにより、両種の共存が可能となるという仮説を、モデルを用いて検証した。森林内を、ナギの雄株、ナギの雌株、イヌガシのそれぞれが優占する3つの部分に分け、これらの3状態からなる推移行列モデルと格子モデルを構築して、両種の共存の可能性とナギの雌雄性の果たす役割を検討した。その結果、耐陰性の大きいナギの種子散布力が耐陰性の小さいイヌガシに比べて小さいという両種の種子散布力と競争力のトレードオフ関係だけでは共存の可能性はきわめて小さいが、ナギの雄株が存在することにより両種の共存の可能性が大きくなることが示された。ナギの雌雄性はこの森林の更新と維持に重要な役割を果たしていると考えられた。また、モデルによる解析により、これまでの調査で明らかとなっているナギの雄株と雌株の空間分布の集中性は、両種の共存の可能性をさらに大きくすることが示された。そこで、雌雄の空間分布の集中性を検討するために、遺伝子解析による未開花個体の雌雄の決定を試みた。雄雌それぞれ4個体について、AFLP法により遺伝子解析を行った。64組のプライマーを用いてDNA断片の増幅を行ったが、雄雌を判別できるプライマー組を見つけることはできなかった。しかし、増幅されたDNA断片のパターンを用いたクラスター解析によって、雌雄を2つのクラスターに分けることができ、DNA断片のパターンを用いて雌雄を判別できる可能性が示唆された。
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