雌雄異株の樹種であるナギとイヌガシがともに優占する、奈良市御蓋山の森林において、2種の個体群の空間構造をL関数を用いて解析した。両種は耐陰性の高い樹種であるが、ナギのほうがイヌガシよりも強い。しかし、種子の散布力はナギのほうがイヌガシよりも小さい。2種の更新動態と共存機構における雌雄性の効果を検討した。ナギの種子は重力散布によって、雌株のまわりのせまい範囲にだけ散布された。ナギの実生や稚樹の分布は集中性を示し、大きな雌株と同所的で、大きな雄株と排他的に分布することが示された。雌雄性はナギの個体群において個体密度の空間的不均一さを増大させていた。イヌガシの種子は鳥によって広い範囲に散布された。イヌガシの実生と稚樹の分布は雌株や雄株と同所的あるいは排他的な関係を示さなかった。イヌガシの種子散布力の大きさはナギにあらわれたような雌雄性による個体密度の空間的不均一さを生み出す効果を緩和していた。イヌガシの大きな個体の分布は、集中的でナギの雄株と同所的であった。このことは、ナギの雄株のまわりではナギの個体密度が低く、イヌガシにとって光をめぐる競争が緩和され、イヌガシの成長にとって好適な環境となっていることを示唆した。ナギにおける個体群構造への雌雄性の効果がイヌガシとの共存を可能にしていることが予想された。森林を、ナギの雄株、ナギの雌株、イヌガシのそれぞれが優占する3つの部分に分け、これらの3状態からなる森林動態モデルを提案して、両種の共存の可能性とナギの雌雄性の果たす役割を検討した。また、遺伝子解析による未開花個体の性決定、養分利用様式からの2種の共存の説明を試みた。
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