木材の辺材部に種々の変色を起こし、経済的価値を著しく低下させる変色菌の中から、今年度は2種の青変菌-Aureobasidium pullulansとCeratocystis piceae-を選び、菌糸の着色過程の観察、着色物質の分離・同定、着色に関与する木材成分の推定等を行った。寒天培地上では、形成されたばかりの白色の菌糸は1〜2日後には着色し、色素生成が速やかに行われることが示された。液体振とう培地で2〜3週間培養して得た着色菌糸から、洗浄、乾燥、脱脂、アルカリ抽出、遠心分離、酸性化、再遠心分離、洗浄、セルロース膜透析、凍結乾燥の操作を経て色素を分離した。この色素について、元素分析、紫外線吸収スペクトル分析、赤外線吸収スペクトル分析を行った。その結果、両菌の色素はともにメラニンの1種であることがまず明らかになった。ついで市販の合成メラニンとの比較から、菌由来メラニンの赤外線スペクトルには脂肪族CHの吸収が強く現れ、水素含有率が高いことから、合成メラニンより脂肪族構造が優勢であることが明らかになつた。変色されやすいエゾマツの辺材を温水抽出、変色の起こらないエゾマツ心材をアルコール・ベンゼン抽出して、両菌に暴露すると、前者では変色が抑制され、後者では若干の変色が認められた。この結果から、温水抽出物が色素の生成を促進し、アルコール・ベンゼン抽出物が色素の生成を阻害していることが示唆され、関与するこれらの成分の確定を検討している。
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