河口域干潟の物質循環系における骨格構造として二枚貝類の物質経済に注目し、二枚貝類の生物生産過程と物理的環境条件、特に水の流動条件との結びつき方を明らかにするために、名取川河口域において研究を進めている。今年度は次のような結果を得ることができた。 (1)水の流動特性と場の分化の形成機構 干潟は潮汐に伴う水の流動によって環境が大きく変化するが、変化の仕方は場所ごとに異なるが、水の流動と水中及び砂の間隙水中の栄養塩濃度に関する28時間連続観測により明らかになった。水の混合過程は非常に複雑であるが、その流動過程において、栄養塩は底土中から水中へ溶出して隣接する場所に運ばれていくという、場と場との結びつきかたがはじめて見えてきた。また、それぞれの場所の底質の粒度組成や間隙水の栄養塩の濃度は水の流動状態の違いをよく反映していると推察された。 (2)二枚貝の生物生産過程 干潟に卓越するイソシジミの生産過程については、環境の異なる場所における成長実験や飼育実験によって詳細に追跡できるようになった。また、河口域で稚幼魚期を過ごすイシガレイは、このイソシジミの水管を選択的に捕食していることが明らかになり、干潟物質経済を考える上での新しい知見を得ることができた。イシガレイはイソシジミの体の部分を食物として摂取するが、イソシジミ自身は成長していくこと、そしてイシガレイが高密度で分布しているような環境、すなわち、川の流水域で水深が浅いところで、底質の含泥率が低く、多種多様な付着珪藻類の分布がみられる場所が、イソシジミの成長は最もよいことが分かった。 これらの事実は、水の流動状態が底質や水中および底土中の栄養塩の供給を規定し、基礎生産が場所によって異なり、それを食物とするイソシジミのような二枚貝の生産過程に反映し、さらには高次生産者であるイシガレイなど魚類の生産へと結びついていくことを示している。すなわち、環境と生物生産過程とを一体のものとして捉えることができるようになってきたこと、また、低次〜高次生産へのエネルギーの流れとして、干潟物質経済を一連の結びつきの中で論議できるようになってきたことを示している。
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