河口域干潟の物質循環系における骨格構造として二枚貝類の物質経済に注目し、二枚貝類の生物生産過程と物理的環境条件、特に水の流動条件との結びつき方を明らかにするために、名取川河口域において研究を進めている。今年度は次のような結果を得ることができた。 (1)水中・砂中の栄養塩類の潮汐に伴う変動 干潟は潮汐に伴う水の流動によって環境が大きく変化するが、変化の仕方は栄養塩の種類によって異なること、また、場所ごとにも異なることが、明らかになった。今年度はこれまで採集が難しいとされてきた川底近くの底土直上水や砂中の水を採集するための器具を考案し、それを用いて連続観測を行った。河川水と海水との混合過程は非常に複雑であるが、その流動過程において、栄養塩のなかでも硝酸態窒素は主に陸水により供給されるが、アンモニア態窒素は川底表面に蓄積した有機物の分解によって生成したものが、上げ潮時と下潮時の水の流動の激しい時間帯に水中へ溶出していることが分かった。その溶出の仕方は場所によってことなり、流れが緩やかで底質の砂の粒径が細かい場所においては溶出が多く、川の中心近くで底質の砂の粒径の粗い場所においては少ないことが分かった。しかしその栄養塩は水の流動に伴い、隣接する場所に運ばれていき河口域全体に供給されていることが分かった。すなわち、場所ごとの役割は異なるものの、水の流動によって場と場とが結びつき河口域の生産を支えていることを示している。 (2)干潟の二枚貝と他の生物との関係 干潟に卓越するイソシジミの生産過程については、環境の異なる場所における成長実験や飼育実験によってすでに、詳細に追跡できた。河口域で稚幼魚期を過ごすイシガレイは、このイソシジミの水管を選択的に捕食していることが明らかになった。イシガレイはイソシジミの体の部分を食物として摂取するが、イソシジミ自身は成長していくこと、捕食された水管も24時間以内には再生が始まり、2週間程度で元の形態に修復することも明らかにできた。すなわち、干潟においては非常に効率のよい生産システムが維持されているということを実証するものである。
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