河口域干潟の物質循環系における骨格構造として二枚貝類の物質経済に注目し、二枚貝類の生物生産過程と物理的環境条件、特に水の流動条件との結びつき方を明らかにするために、名取川河口域において研究を進めている。今年度は次のような結果を得ることができた。 (1) 二枚貝類の分布と環境、とくに水の流動条件の関係 名取川河口域全体を網羅するように調査場所を50点選び、二枚貝類の分布と環境条件との関係について調べた。アサリ、サビシラトリなど7種類の二枚貝類の分布がみられ、優占種はイソシジミであった。環境条件についての主成分分析を行い、6つのクラスターに分けてみると、それぞれのクラスターは水の流動条件を反映していることが分かった。分布密度が高く、相対成長が最もよいところは、底質の含泥率は低いが、食物の指標であるクロロフィルaが高いという条件のクラスターに属し、水の流れがやや速いところであった。水の流動が悪いところでは、イソシジミの分布密度は低く、また、相対成長も低いことが示された。 (2) 干潟の二枚貝と他の生物との関係 河口域で稚幼魚期を過ごすイシガレイは、イソシジミの水管を選択的に捕食しており、4月から6月の期間1日あたり60片の水管を食べていることが分かった。一方、イソシジミ自身の捕食された水管は24時間以内に再生が始まり、3週間程度で元の形態に修復していることも明らかにできた。河口域で採集したイソシジミの水管の形状からイシガレイによる捕食後の日数が推定できた。イソシジミへの摂食圧は季節によって大きく変化しており、4月から6月の間に高く、1日半に1回の割合で水管が捕食されていることになる。すなわち、再生する以前に再び捕食されている。しかし、イソシジミへの影響は現段階ではないと判断され、むしろ、捕食圧の低い場所よりも相対成長はよいことが分かっている。つまり、干潟においては非常に効率のよい生産システムが維持されているということを実証するものである。 これらの事実は、水の流動状態が底質や水中および底土中の栄養塩の供給を規定し、基礎生産が場所によって異なり、それを食物とするイソシジミのような二枚貝の生産過程に反映し、さらには高次生産者であるイシガレイなど魚類の生産へと結びついていくことを示している。すなわち、環境と生物生産過程とを一体のものとして捉えることができるようになってきたこと、また、低次〜高次生産へのエネルギーの流れとして、干潟物質経済を一連の結びつきの中で論議できるようになってきたことを示している。
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