【目的】ウナギ類は水産上の重要性に加え、謎に満ちたその生活史に世界の多くの魚類学者の注目を集めてきた。しかし、生活史研究のスタート地点にあるレプトケファルス幼生の分類については、18種のウナギ科魚類のうちわずか3種の幼生で確立しているに過ぎない。本研究は、北西および南西太平洋で採集された幼生の形態的特徴を明らかにした上で、エタノール固定標本を用いてmtDNAの塩基配列情報により種判別を行うことを目的とした。 【結果】ウナギ(Anguilla japonica)、オオウナギ(A.marmorata)、A.obscuraなどウナギ科10種の成魚の筋肉からミトコンドリア遺伝子のうち、チトクロームb、16SリボゾームRNA遺伝子の一部(300〜550塩基)をPCR法により増幅し、塩基配列を決定した。得られた配列はいずれも種レベルの判別に有効な部位、すなわち種間での多型が種内の多型と重複しない部位であった。これより、種判別に用いる部位として、チトクロームb領域を選定した。 北西および南西太平洋から得られた幼生は総筋節数、肛門前筋節数、胆嚢前筋節数、肛門-背鰭間筋節数などの体節形質および採集海域から7タイプに分類された。そのうち全長約30mm以上の幼生は前述の分類形質を用いて種レベルの同定が可能であった。しかし、それより小型の幼生は、背鰭起部が不明瞭で最終的な同定は不可能であった。一方、幼生から得られたチトクロームb遺伝子の塩基配列は成魚のものと一致し、小型の仔魚の同定も可能であった。以上のように当初に計画した研究目的、すなわち、mtDNAの塩基配列情報による種判別については満足できる成果を得た。今後は今回の科学研究費によって得られた成果を基に、フイールド(船上)でできる迅速な同定法の確立に向けて知見を集積する予定である。
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