研究概要 |
1.耐久卵の休眠機構 【目的】シオミズツボワムシ(以下ワムシ)の耐久卵休眠期の内部形態を組織学的に調べると共とに、光の強さと波長が耐久卵の孵化に与える影響について検討した。 【方法】両性生殖発現頻度が高いNH1L株(L型ワムシ)が形成した耐久卵を材料とした。両性生殖雌虫によって産出された直後(0日目)のものから内因性休眠が終了する8日目までの耐久卵を2日毎に採取し、Karnovsky液と1%オスミウム酸で二重固定した。その後樹脂で包埋し、1μm厚の切片を作成した。切片はトルイジンブルーで染色した後、光学顕微鏡下で観察した。次に形成後暗黒下で15日以上保存し、外因性休眠期にある耐久卵を孵化に適した水温25℃、塩分16ppt下におき、ハロゲンランプまたは紫外線ランプと色ガラスフィルターの組み合わせにより、光の強さ(3.5-99μE/S・m2の間に6段階)と波長(250-700nmの間に9段階)調節のもとに照射して孵化率を求めた。 【結果】休眠期間を通じて耐久卵の細胞質は多核体であると推察された。産出後2,4,6日目の受精卵の核数は、それぞれ22,20,(各々n=1)で、休眠中に増加する傾向がみられた。また二次卵膜も休眠中に徐々に厚くなることが分かり、厚さ(μm)は1.2(0日目)、2.0(2日目)、3.2(4日目)、3.7(6日目)、4.0(8日目)(各々n=10)だった。耐久卵は孵化の準備が整っても暗黒下では孵化せず、77μE/S・m2(20分)以上の光照射で孵化した。また波長350nm以上では孵化率は1-25%で、照射波長が長くなると共に低下したのに対し、波長250-310nmでは孵化率は50-60%に達した。過酸化水素の添加(1700μmol/l)により暗黒下でも孵化が起こったことから、光照射にともなう活性酵素の生成が休眠卵孵化の一因となっていると推察された。 2.休眠卵の缶詰保存 【目的】ワムシの耐久卵は比重が大きく水底に分布する。採取した耐久卵は、堆積物が混じった状態で保存すると孵化率が低下することがある。そこで耐久卵の孵化能力を維持するための方法として真空凍結乾燥後の缶詰処理を検討した。 【方法】1989年に50トン水槽で大量形成させ、以後5年間冷暗所で保蔵した休眠卵を実験に用いた。このうち、堆積物と共に保存した卵と、堆積物から分離したのち保存した卵を各々走査電顕観察した。耐久卵は水洗後、恒温器(20℃)内で24時間乾燥したのち、-20、-35、-80℃の3段階で12時間凍結して、解凍後の孵化率を調べた。さらに前述の3段階の温度で凍結後、真空凍結乾燥処理した卵の孵化状況も調べた。次に、真空凍結乾燥した卵を多数用意し、真空度を変えて(160-760mmHg)、缶詰を作成した。この状態で保蔵した後、孵化率を調べた。 (結果)休眠卵の二次卵膜表面には0.1μm径の多数の孔があり、ガス交換に役立っていると判断された。堆積物と共に卵を保存した場合は、卵膜表面に多数の細菌の付着が観察されたことから、これがガス交換を妨げ、孵化の低下をもたらしていると推察された。次亜塩素酸ソーダ1ppmで卵を処理すると、付着した細菌は取り除かれ、孵化率が向上した。20℃で休眠卵を24時間自然乾燥させた後、真空凍結乾燥すれば、凍結温度によらず、解凍後も耐久卵の孵化率が下がることはなかった。また37℃で6日間缶詰保蔵すると孵化率は低下したが、保蔵時の真空度は孵化に影響を与えなかった。目下、常温で長期間安定的に缶詰保蔵できるかどうかを検討中である。
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