近年、人工種苗や琵琶湖産種苗の各地への放流が盛んになるに伴って、在来の両側回遊型アユ集団の性質の変化が憂慮される事態が生じるに至っている。この事態の究明に資するために、DNAレベルの遺伝標識を用いて、アユの代表的種族である琵琶湖陸封型アユと両側回遊型アユの遺伝的差異を明らかにすることを目指した。まず、アユにおいて変異性の高いことがすでに明らかになっているミトコンドリアDNAの制御領域の塩基配列約330bpを分布したところ、多型的な塩基サイトの数および塩基多様度のいずれかの面からも、陸封型は両側回遊型よりも遺伝的に均質な傾向を示した。また、両型集団間の純塩基置換率は0.21-0.53%と比較的高い値が得られ、両者のミトコンドリアゲノムにはある程度の分化の生じていることが示された。さらに同ゲノム上にあるND4〜tRNA (Ser)遺伝子にかけての領域の塩基配列も分析したところ、全体としての変異性は制御領域に比べて低いものの、上記と同様の傾向が認められた。制御領域の主要な変異サイトの情報に基づくと、およそ80%の個体について、それが帰属する型を識別することが出来ることが明らかになった。また、全ゲノムの大部分を占め膨大な情報量を保有している核DNAについては、その種々の領域における両型アユ間の差異を全体として把握するために、多数のランダムプライマーを用いてRAPD法によって検討した。その結果、数多くの個体変異が見出されたが、両型アユの間で完全に異なるバンドは見出されなかった。
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