研究概要 |
魚類の腎臓における尿量の調節は,主に糸球体濾過量(GFR)を変化させることにより行われている。窒息のような激しい条件下では,GFRの変動には腎血液流量(RBF)や腎動脈血圧の変化が大きく貢献しており,その時には,血液中のカテコラミン,アンギオテンシンII,プロスタグランジンE_2などのホルモン濃度の変化が大きく貢献している。この事象については,コイのみでなく,海産魚であるヒラメにおいてもほぼ同様であることが判った。 しかし,通常状態では,血液の変化にかかわらずRBFやGFRを一定に保つように調節されていることがほ乳類では認められており,この調節には腎臓の自動調節能,神経性調節も重要な役割を担っていると考えられる。そこで,供試魚としてコイを用い,腎機能調節に果たす神経の働きを捉えるため,神経遮断剤の投与試験を行った。すなわち,心臓の左右に心拍数導出用電極,背大動脈内に血圧測定用カニューラ,膀胱に採尿用チューブを取り付けたコイに,神経遮断剤としてアトロピン,アテノロール,プロプラノロール,フェントラミン,プラゾシンを、餌と共に経口投与あるいは腹腔内に薬剤注入用チューブを通して投与し,心拍数,血圧,尿量の変化を調べた。アトロピンの投与により,心拍数の増加,血圧の上昇,尿量の僅かな増加が認められた。アテノロールやプロプラノロールでは,心拍数は僅かに減少し,血圧も低下した。尿量は減少する傾向を示した。フェントラミンでは,心拍数は増加したが、血圧は殆ど変化せず,尿量は僅かに増加する傾向を示した。プラゾシンでは,心拍数は増加したが,血圧は低下し,尿量も僅かに減少する傾向にあった。以上の結果は、魚においても,腎機能調節に神経系が貢献しているが,その役割はそれほど大きくない事を暗示している。
|