(目的)本研究の目的は、魚類の概日リズム中枢を脳内に検索、同定し、魚類サーカディアン・リズムの形成機構を解明してゆくための事実的基盤を確立することにある。本年度は、視交叉上核相当領野の局部破壊による遊泳活動の日周リズムの変化を調べた。 (方法)1日の一定の時間帯に遊泳活動が高まるよう条件付けしたキンギョの脳内当該領野を、頭蓋固定装置上にて、ガラス被覆微小金属単極電極を用い、通電により焼損した。ついでその被手術魚の遊泳活動量の経時的変化を観察した。 (結果)当該領野を含む脳内領域を焼損しえた被手術魚を11個体、得た。その内9個体は術後の遊泳活動が非常に低調であり、給餌にも応答せず、活動量の経時的変化は捉えられなかった。他の2個体は明暗サイクルの有無如何にかかわらず、ほぼ、終日活動しカイ二乗ピリオドグラム解析の結果からも遊泳活動の日周期性の消失したことが示された。一方、偽手術魚において興味深い結果を得た。偽手術魚は電極を刺入しただけのものと刺激レベルで通電したものとの2群を設けた。前者はインタクトな個体同様、条件付けされた時間帯に活動の高まりを示すものが多かったが、後者ではその時間帯のズレたものが1個体もあった。そのズレは明期開始時刻と手術通電刺激時刻との時間間隔に相当した。 (考察)例数が少ない上、供試魚としたキンギョの遊泳活動日周リズム維持期間が数日しかないことから、明らかな結論ははばかられるが、本実験結果から当該領野を含む領域に概日リズム中枢があるものと思われ、通電刺激によってそれが所謂「リセット」されるのではないかと推察される。また、遊泳活動日周リズム維持期間の態様は組織培養松果体関連のメラトニン産生リズムの態様と酷似していることから、サーカディアン・リズムに関わる松果体関連の研究の進展が待たれる。
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