(目的)魚類脳・視交叉上核が個体活動の概日リズム中枢であるかを調べるため、前年度では当該領野の破壊が個体遊泳活動の日周リズムの消失をもたらすことが捉えられたことを受け、本年度は当該領野の神経細胞活動の特性を外囲環境明暗リズムとの関わりにおいて検討した。 (方法)明暗周期の位相変移に対する当該神経核の活動電位の日周的パターンの同調性を調べた。制限給餌により遊泳行動に日周リズムを条件付け・学習させたキンギョに対して、飼育環境明暗周期を6時間、位相変移させて飼育し、所定の時日後に当該神経核の活動電位を頭蓋固定器上で連続観測し、その活動電位の日周リズムの位相変移の程度を調べた。 (結果および考察)外囲明暗周期の位相変移に対して、遊泳活動リズムは54時間後までには同調したが、当該領野の活動日周リズムは大きく遅れて1〜4週間の間に位相が同調することが判明した。このことは当該領野が明暗周期とは相対的独立に、自律的日周リズムを形成していることを示している。しかし、遊泳活動リズムの位相変移の迅速な同調性とは全く一致しない。むしろ、松果体のメラトニン産生リズムに見られる位相同調性と非常に良く平行する。したがって、外界の明暗リズムの位相変移には容易に同調しない振動体がSCNであり、それに基づいて明期開始からの時間を計測的に認識し、その記憶によって給餌時刻に予知的遊泳行動を解発しているものと考えられる。
|