研究概要 |
インドネシアナマズClarias batrachusは飼育条件下では排卵が起こらないが,外部からヒト絨毛性生殖腺刺激ホルモン(HCG)を投与することにより,人為的に排卵を起こすことができる.成熟雌にHCG(0.8IU/gB.W.)を投与後約14時間後の個体(3尾)および対照群から卵巣と間腎腺を摘出し,HCHを加えた培養液および加えていない培養液で各組織を12時間培養し,培養液中の17,20β,21-trihydroxy-4-pregnen-3-one(20β-S),17,20β-dihydroxy-4-pregnen-3-one(17,20β-P),および17,20α-dihydroxy-4-pregnen-3-one(17,20α-P)を酵素免疫測定法で測定した.前もってHCGを投与した群では卵巣と間腎腺いずれの組織も20β-Sおよび17,20β-Pを産生したが,産生量は後者に比べ前者がはるかに多かった.培養液中へのHCGの添加は卵巣による両ステロイドの産生を増加させ,一方,間腎腺による産生を抑制した.17,20α-Pは間腎腺組織で産生が認められたが,卵巣組織では検出できなかった.以上から,本種の間腎腺は生殖腺刺激ホルモンの前処理により,通常のコルチコイド産生型から20β-S,17,20β-P,17,20α-Pなどの卵成熟誘起ステロイド産生型へ転換する可能性が示唆された.前二者のステロイドは卵巣においても産生されるが,外部からのHCG投与に対する反応性は間腎腺のそれとは異なっていた.本研究においては得られた間腎腺組織量が少なかったため,ステロイド産生系の変化が代謝系のどのレベルで起こっているかを確かめるには至らなかった.今後は充分な組織量を集めて間腎腺におけるステロイド代謝系,およびそれに対する生殖腺刺激ホルモンおよび副腎皮質刺激ホルモンの影響を詳細に調べる必要がある.インドネシアナマズと類縁関係がかなり離れたマコガレイとウミメダカにおいても排卵の前後で血中20β-S濃度の上昇が確かめられた.2β-Sは一種のコルチコイドでもあるため,これらの種でも卵成熟誘起ステロイド産生に間腎腺の関与が考えられる.
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