(1)前年度まで麻布大学において、視覚系の発達したウマヅラハギ(フグ目、カワハギ科)で遠近調節反射の脳内回路を決定する研究に従事してきた。その結果それらの回路が、網膜-後交連核-エディンガーウエストファール核-毛様体神経節-水晶体筋の各成分からなることを解明した(Somiya et al.1992)。今回の研究はそれをさらに発展させたものである。すなわち、網膜から直接に入力を受ける後交連核に神経トレーサーであるHRPを注入し、遠近調節反射に関与する網膜神経節細胞を探索した。 (2)手術用顕微鏡のもとで、ウマヅラハギの脳を露出し視蓋前域にある後交連核にHRPを電気的に注入した。手術後ウマヅラハギを1週間生存させ、その後、脳と網膜を固定してHRP反応を施した。HRP法にはAdamus(1981)の方法を用いた。網膜はホールマウント標本としてHRPで標識された細胞の形態とその分布状態を調べた。 (3)上記の実験の結果、HRPを投与した脳の反対側の網膜神経節細胞がHRPで標識された。標識された細胞は大型のもの(20X15μm)と小型のもの(13X8μm)の2種類であった。これらの細胞は網膜の側頭部だけに分布していた。また、特に大型の細胞は規則的なモザイク状配列パターンを示し、細胞同士の間隔は約200μmであった。現在は、同じ実験を続けており、標識された細胞がどのようなタイプの網膜神経節細胞であるかを網膜の縦断面を観察することによって決定しようと努力している。おそらく、これらの網膜神経節細胞が遠近調節の情報を網膜内で処理していると考えられる。
|