近年、微生物から高等動植物に至る多くの生物に種々のD型アミノ酸が見出されている。水産動物でも遊離D型アミノ酸が調べられているが、量的に多いのはD-アラニンで、その分布は動物群によって異なることが示唆されている。この点に着目し、研究例の少ない水産動物における遊離D-アラニンの分布に関する基礎的データを蓄積するために本研究を企画した。 食用種のみならず、これまでに分析されていない水産動物を採集し、可能な限り組織別に80%エタノールエキスを調製した。DおよびL-アラニンの分析はNacalai tesque製社Cosmosil 5C18-MSパックドカラムを用いるHPLCで行った。 海綿動物1種、腔腸動物のミズクラゲ、イソギンチャク類2種のDおよびL-アラニンの分布を調べたところ、アラニンの大部分がL-アラニンで、D-アラニンは存在しても微量であった。環形動物では、多毛類のウロコムシ、ゴカイなど10種について分析した。D-アラニンがほとんど検出されない種とかなりの量が検出される種があり、D/D+Lが0.4以上の種もあった。節足動物では、エビ・カニ類と同じ十脚類に属するヤドカリ類にエビ・カニ類と同様に多量のDおよびL-アラニンが認められ、D/D+Lは0.25〜0.5であった。しかし、蔓脚類に属するフジツボ類および十脚類にきわめて近い動物群である等脚類に属するニホンコツブムシ、フナムシおよびオオグソクムシのD/D+Lは0.01以下と興味ある結果が得られた。棘皮動物では、ウニ類、ナマコ類、ヒトデ類を調べたが、ウニ類の生殖腺には多量のDおよびL-アラニンが存在し、D/D+Lは低いもので0.45、高いものでは0.9近くにものぼった。一方、ヒトデ類、ナマコ類はアラニン含量が低く、D-アラニンは検出されても微量であった。節足動物と同様にD-アラニンの存否は動物群によって異なった。原索動物では、シロボヤ、ユウレイボヤのいずれにもD-アラニンは認められなかった。
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