研究概要 |
麻ひ性貝毒の原因種である渦鞭毛藻Alexandrium tamarenseに関しては、これまでに多くの生物学的知見が蓄積されているが、現在もその発生を予知することは困難である。本研究ではプランクトンの相遷移現象に着目し、この問題にアプローチする。本年度はまず、混合培養系を用い、A.tamarenseと各種珪藻の間の生長競合を検討した。次に、これらプランクトンを大量培養し、生長抑制物質の単離、性状分析を試みた。以下にその成果を述べる。 1.A.tamarenseと珪藻間の混合培養実験を行った結果、相互の生長競合は珪藻種によって異なるパターンを示すことを明らかにした。すなわち、Thalassiosira,Cheatocerosとの間では相互に生長抑制を示し、その抑制効果は相対的細胞密度に依存して一方的になる傾向にあった。自然環境下ではA.tamarenseに比べてこれら珪藻のバイオマスは圧倒的であることを考えると、天然では珪藻からの生長抑制効果が優先している可能性が示唆された。一方、A.tamarenseとSkeletonemaの間には生長競合関係が観察されず、いずれの種も単独培養と同様の生長を示した。この結果は、天然では両者が共存する現象とよく一致した。 2.次に、これら生長競合がアレロパシー作用によるものと想定し、各プランクトンの培養ろ液より珪藻あるいは渦鞭毛藻の生長を阻害する物質を検索した。その結果、A.tamarenseから有機酸とと思われる有効物質を分離できた。本物質はThalassiosiraを低濃度で死滅させる作用があった。一方、Thalassiosiraの培養ろ液からはA.tamarenseの生長を抑制する極性の低い物質の存在が明らかとなった。なお、Skeletonemaにはこのような物質は検出されず、上記の結果とよく一致した。
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