本研究は、北海道の各経営形態において存在する大規模経営農家の形成過程とその結果としての現状の性格づけを背後開拓農家との関連においてとらえようとするものである。 現在進められようとしている「新政策」においては、大規模経営が21世紀を見通した今後の日本農業の担い手のひとつとして大胆に提起されているが、すでに水田経営で20ヘクタール、畑作経営で40ヘクタール、酪農経営で50ヘクタールを越える経営群を擁する北海道農業はそのひとつのモデルとして位置づけられている。しかしながら、大規模地帯に照応する戦後開拓地帯においては、個々の経営の規模拡大過程は土地兼併型の漸進的な過程ではなく、未墾地を含む劣等地が国家的なインフラを伴いつつ、土地改良によって優等地化される場合が多いことが実態調査から明らかになった。ただし、農家の階層構成をみると、純粋な戦後開拓地を除き、戦前入植者が上位階層をなすという「先着順序列」をみてとることができる。しかし、これも1980年代後半以降の構造変動の中で変化がみられ、下位農家の構成は変わらないものの、規模拡大農家のなかの戦後開拓農家の進出が著しい特徴となっている。「先着順序列」の不明確化である。 さらに、こうした地帯は農産物価格の下落をうけて、従来から抱えていた膨大な債務返済に苦慮しており、1990年代に入って離農が多発する実態にある。水田地帯にあっては、基盤整備事業の受益者負担金の重圧が依然として解消しておらず、さらに1997年の米価下落が追い打ちをかけている。畑作地帯においては、数品目の作目に対応した機械化投資が重圧となっており、酪農地帯に関しては施設投資の回収に困難を生じている。しかも、大規模経営の技術的基盤は、従来の中型機械・施設体系の延長線上にあり、日常的な労働強化のもとにおかれていることが明かとなった。
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