兼業農家の世代継承性とその社会的影響を研究テーマとして、主として西日本地域における農家調査に基づく研究を行なった。 平坦地水田農村である佐賀県芦刈町N集落では、後継者の多くは常勤者や自営兼業など、より安定的な職種に移行しているが、定年後あるいは親が働けなくなったら農業をするというのが多数である。規模もそれほど大きくなく、旺盛な土地利用型農業の展開もなく、通勤兼業が可能なこの地域では、稲単作プラス兼業の形態が継続することになる。 それに対して条件不利地域に属する高知県西土佐村、兵庫県一宮町の調査結果は大きく異なる。ここでは既に一世代世帯、二世代世帯が2/3を占め、日本の農家を特徴づける「いえ」は広範に崩壊している。また後継ぎも一宮町では比較的近くの都市に転出しており、西土佐村では遠隔地の都市に転出している。このような地域では現実には、都市に出た子供達が村に帰ってくる可能性は極めて不確実である。 農業経営の零細性、自給的農業、担い手農家の未展開、通勤機会の欠如がこのような現象の背景である。このような地域では、集落営農、あるいは市町村公社などによる地域的な農業支援が模索されているが、最終的な農業の担い手についての見通しは不明である。 以上に対して、東北のような、おなじく通勤兼業機会に恵まれない地域でも、経営規模が相対的に大きく、農業の担い手が存在するところでは、兼業農家や高齢農家は全面積を貸し付けて離農することが可能になる。 このような地域の農業構造と労働市場の相違により兼業農家の世代継承性が規定される。
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