肉用牛経営は、牛肉輸入自由化による収益条件の悪化、過疎・高齢化や農業生産の全体的縮小等の影響をうけ、大変厳しい環境にある。筆者は、以前、中国中山間地域の肉用牛飼養の経営構造分析を行ない、飼養頭数と戸数の激減の基本的要因は、飼養農家の技術と基盤の後進性・零細性にあることを指摘した。今日、この対応として、JA・市町村や生産者組織等が中心となって、飼養農家の飼養基盤の補強、生産過程の一部代行等を目的とした地域飼養システムの形成の動きが見られる。 本研究は、肉用牛経営構造の革新に地域飼養システムがどのような役割と機能を果たしているかを考察する事が課題である。その主たる内容は、(1)飼養規模別の戸数、頭数の動向から、今日の産地問題を考察。(2)小規模農家の飼養中止要因と大規模農家の形成条件を考察。(3)各地で見られる地域飼養システムの形態と機能を市町村、JAレベル及び生産者組織等レベルで分析。(4)地域飼養システムの形成により、肉用牛飼養の経営構造がどのように革新されたか、その意義と課題を考察。(5)(3)と(4)の事例から、地域飼養システムの機能と諸指標を提示した。 得られた結論は、(1)近年、産地の飼養頭数は飼養農家の減少を規模拡大でカバー出来なくなり、産地維持のためにも地域飼養システムの形成が必要。(2)地域飼養システムの形成により、飼養農家の経営基盤が補強され、小規模農家の存続、大規模農家・担い手農家の形成効果が期待できる。(3)飼養農家の保全や担い手の育成のための飼養基盤の整備は、地域単位としたものが資源利用、コスト低減、飼養技術の革新等の点から望ましい。(4)市町村、JAレベルと生産者組織等レベルの重層的なシステムの形成が望ましい。(5)地域飼養システムは飼養農家を直接サポートする機能、間接的にサポートする機能、地域合意形成機能からなる。
|