研究概要 |
山間地域の棚田が持つ「空間創出」機能の経済学検討およびそれを維持するためシステム構築の検討を経済学・土壌学の立場から行った。 経済学的分析では、まず棚田保全の意義の再検討を行った。棚田の外部経済としては、これまで水源かん養機能や洪水防止機能が意識されがちであった。しかし、本研究のフィールドとなった高知県大豊町などの棚田地帯は地すべり地帯に立地しており、水を蓄えることがそのまま国土保全の視点から肯定できないことが判明した。地域内から棚田を評価する視点を一層重視する必要が認められた。 棚田のもつ外部経済を経済的に評価するためのアンケート調査も行った。上流(大豊町)と下流(徳島市)の両地域で約3200部のアンケートを配布し、3割を回収した。分析の結果、上下流の間には住環境保全機能に対する著しい評価の違いが確認できた。また、棚田地域住民の棚田保全に対する支払意思額は少なくとも240万円程度はあることが明らかになった。これらの分析を踏まえ望ましい土地利用形態についても検討した。 一方、土壌分析では、奈半利町花田牧場(1992年造成)及び南国市白木谷斉藤牧場(1968・1983年造)において3カ月毎に土壌硬度を測定するとともに,上層(5〜10cm)と下層(15〜20cm)の土壌試料を採取し、糸状菌・細菌の生菌数と低分子有機酸の変動を調査した。また、土壌水分,地温,雨量のデータも採取した. 古い草地の尾根筋では上層と下層の低分子有機酸量が同程度であるのに対し,新しい草地や天然生林では上層に多く,古い草地では透水性,排水性の向上にともない上層の養水分が下層にまで十分浸透することがわかった.古い草地は新しい草地や天然生林に比べ,水溶性の養分は少なく,微生物の活性も低いが上層・下層の差が小さいことから5〜20cmの範囲での養水分の循環がうまく機能する安定な状態であることがわかった.
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