土壌面蒸発速度と地温の日変化に対する土壌水分量の影響を調べるために、筑波大学農林技術研究センター内に調査地点(裸地、関東ローム)を設け、地温分布の日変化、蒸発速度、土壌水分分布を、気温、日射量とともに測定した。その結果、蒸発の進行によって地表面に、その下層の湿潤層よりも含水量が著しく小さい乾燥層が形成され、この乾燥層の形成によって蒸発速度が低下するとともに、日中の地表面温度が著しく上昇することを実測によって明らかにした。さらに、乾燥層中の土壌の相対湿度(水ポテンシャル)分布の測定および熱収支の解析から、蒸発における液体から水蒸気への水の相変化が乾燥層と湿潤層の境界で生じ、土壌中の水移動の形態は、湿潤層では液状水の移動でありが乾燥層中では水蒸気の拡散移動となり、乾燥層が発達するとこの水蒸気拡散が蒸発速度を制約するようになることを明らかにした。 さらに、蒸発モデルとして、土中の湿潤層-乾燥層境界に蒸発面(飽和水蒸気面)を仮定し、この蒸発面と大気との水蒸気濃度差を蒸発の駆動力として、乾燥層の拡散抵抗と大気境界層の抵抗との直列合成抵抗によって蒸発速度が決まるとするモデルを考えた。この蒸発モデルと土壌中の熱伝導を熱伝導方程式で表す熱伝導モデル、地表面での放射と顕熱の交換モデルとを組み合わせて、蒸発速度、地温分布、乾燥層内の水蒸気濃度等の日変化を計算し、実測例とよくあう結果を得ることができた。 この成果は、土壌水の塩濃度が高い乾燥地において乾燥層が形成された場合の蒸発と塩分の集積にも適用できる一般性がある。すなわち、湿潤層を土壌水(液状水)とともに移動した溶解塩分は、乾燥層底部の蒸発面において水だけが蒸発してとり残され、ここに集積する。
|