ポテンシャル蒸発速度が降雨量を上回り、土壌水の塩濃度が高い乾燥地においては、実蒸発量が浸透量(降雨量)を上回ると、土壌水(液状水)とともに移動した溶解塩分は蒸発面において水だけが蒸発してとり残され塩分集積が生じる。一方、蒸発速度は表面乾燥層の形成によって大きく低下する1 ので、塩分集積を予測し制御するには、乾燥層が形成された場合の蒸発速度が重要であることが明ら? かになった。蒸発の進行によって地表面に、その下層の湿潤層よりも含水量が著しく小さい乾燥層が形成され、この乾燥層の形成によって蒸発速度が低下することは、筑波大学農林技術研究センター内に調査地点(裸地、関東口ーム)における地温分布の日変化、蒸発速度、土壌水分分布を、気温、日射量とともに測定してあきらかにしており、さらに、蒸発モデルとして、土中の湿潤層一乾燥層境界に蒸発面(飽. 和水蒸気面)を仮定し、この蒸発面と大気との水蒸気濃度差を蒸発の駆動力として、乾燥層の拡散抵抗と大気境界層の抵抗との直列合成抵抗によって蒸発速度が決まるとするモデルを考え、実測との対比でモデルの有効性が検証されている。これをふまえて、塩分集積と土壌劣化が問題になっている現場としてパキスタン・ファイサラバード地区においてその実態と農民が行っている塩害防止策や現地研究機関が提案している対策をしらべた。そして、上記の成果に基づいて、その科学的な裏付けを説し評価した。とくに、塩分集積と土壌劣化のプロセスを、土壌一植物一大気系の水移動との関連で捉え、パキスタン・ファイサラバード地区の事例を念頭において、塩害と土壌劣化の防止策を考察し提案した。
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