本研究の目的は、近年の農地環境に対する水環境の悪化が及ぼす影響を、水の量と質との把握を基に検証するものである。先ず、水の量と質の簡便な同時測定法に必要な高精度の基本データを確定し、その測定法の能力を検証することを計った。そのため、試作テンシオメータと電子天秤とで構成される、土壌の保水性と透水性の簡易同時測定法の改良に努めた結果、各種土壌による実験結果と理論値との良好な一致を得るに至った。 次に、水環境の悪化が最も顕著な河川下流の低平農業地帯を対象に、水質要因のモニタリングに関する現地調査を実施した。調査地は、木曽三皮下流の輪中地帯として著名な高須輪中の平田町、直上流部に岡山市と倉敷市の中規模都市を有する児島湖周辺地域、そして感潮河川からの地下浸透水による塩害が懸念される淡路島西淡町孫太川河川改修事業地区を選んだ。いずれの地区も、長年の間に確立・維持されてきた微妙な水管理の遵守により、現在の営農基盤が保持されている。よって、わずかな水環境の変化をもたらすいかなる要因にも、入念なモニタリングが重要であると認識された。さらに、灌漑水の水質汚濁に伴う土壌の物理・化学性の悪化の状況は、極めて複雑な様相を呈することが実験的に確認されたことから、土壌の物理・化学性に影響する要因の相互作用について考察することにより、水質障害対策を包含した土壌保全のあり方を提案した。 また、水の質を色やその他指標により表現する手法について検討した結果、化学的な意味での水質のみならず、人が直接的に見たり感じたりする水の質に関する指標が、農地環境に対する大きな影響を表現するのに適切なものであると認識した。
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