我が国は農耕地帯としては降水の多い地帯に属するため、水田転作ダイズや裏作の麦作では湿害は克服すべき問題となっている。本研究では、畑作物の湿害の発生機構を解明することを目的にオオムギ、ダイズ等の畑作物の個葉の光合成、蒸散速度に及ぼす地下部浸水処理の影響を明らかにするとともに、植物体内における各種ホルモンの動態を明らかにしようと試みた。実験は恒温恒湿の人工光型気象室を使用して行った。 ダイズでは、地下部浸水処理5日目から顕著な光合成速度の低下が認められた。10日目には無処理区の60%まで低下した。蒸散速度は処理開始7日目から減少した。光合成速度の減少は葉のクロロフィル含量及び窒素含量の低下と並行して生じており、地下部浸水による生理活性の低下に起因すると考えられた。 オオムギでは光合成速度は浸水処理開始後2日目から低下し始め、6日目には対照区の30%まで低下した。オオムギはダイズよりも浸水処理に対する反応が大きいことが明らかになった。 処理水温の影響をオオムギを用いて検討した。 処理水温を30Cに上昇させるとより早く光合成速度の低下が生じ、5日目にはほぼ停止した。クロロフィル含量も低下した。葉身のクロロフィル含量と光合成速度の間には有意な正の相関関係が認められ、光合成速度の低下は根の酸欠によりクロロフィルの分解が促進されたためと思われた。葉、茎、根の窒素含量も著しく低下した。 以上のように処理水温を上昇させると低下反応が早期に起こることが明らかになった。
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