我が国は農耕地帯としては降水の多い地帯に属するため、水田転作ダイズや裏作ムギなどでは、冠水や排水不良による土壌水分の過剰に起因する湿害が重要な問題となっている。本研究では、畑作物の湿害の発生機構を解明することを目的にオオムギ、ダイズなどの畑作物の個葉の光合成・蒸散速度におよぼす地下部浸水の影響を検討した。 その結果以下のような成果が得られた。 ダイズでは、地下部浸水処理5日目から顕著に光合成速度が低下し、10日目には対照区の60%まで低下した。蒸散速度もそれに伴い7日目から低下した。オオムギでは、2日目ころから光合成速度の低下が認められた。処理水温の上昇により、処理の影響は増大し、4-5日で光合成速度がほぼ0になった。蒸散速度は光合成速度の低下に引き続き生じた。 両作物とも光合成速度の低下は、葉身のクロロフィル含量と同時に進行することから、地下部の浸水による酸素不足により、葉身の代謝に異常が生じ葉の老化が促進されることにその原因があると考えられた。また、処理の影響はダイズよりオオムギで大きい傾向があった。 オオムギで高二酸化炭素濃度下で地下部浸水処理を行ったところ、空気中の二酸化炭素濃度が高まるほど、処理による光合成速度の低下が早く起きる傾向が認められた。高い二酸化炭素濃度のもとでは、植物の老化が促進される傾向があることが示唆された。 このような結果は、湿害の機構について基礎的な資料となるものと考えられる。
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