平成8年度及び9年度に「乳汁κ-カゼインの免疫抑制作用に関する研究」という課題のもとに研究を行い、得られた成果は以下の通り要約される。 1.牛乳κ-カゼインのTーリンパ球増殖抑制メカニズムについて検討を行い、κ-カゼインはそのκ-カゼイノグリコマクロペプチド(CGP)域(106-169域)のシアル酸を含む糖鎖を介して単球・マクロファージに結合し、IL-1レセプターアンタゴニストの大量生産を誘導することと、CD4+Tーリンパ球に直接結合し、その膜表面へのIL-2レセプターの発現を阻害することにより、Tーリンパ球の増殖を抑制する。なお、CGPは、IL-1レセプターアンタゴニストと同じIL-1ファミリーのサイトカインであるIL-1αやIL-1βの生産には影響を与えない。 2.κ-カゼインは本来、マクロファージの食作用や活性化を抑制する作用を有しているが、その作用はペプシン消化では直ちに消失するが、トリプシンやキモトリプシン消化を行っても殆ど変化しない。 3.CGPをマウスの飼料に混合し、経口投与すると、経口投与抗原や腹腔内投与抗原に対する特異抗体の生産が顕著に低下し、その原因はサブレッサーTーリンパ球の数が機能、あるいはその双方が増大していることによる。 4.人乳CGPはマウスのT、B、両リンパ球に対してアポトーシス誘導能を有する。 5.牛乳κ-カゼインをトリプシンで消化するとアポトーシス誘導能を有するペプチドが生じ、そのペプチドはパラ-κ-カゼイン(1-105)域とCGP域の双方から生じる。 以上のように、牛乳κ-カゼインによるTーリンパ球の増殖抑制メカニズムを明らかにするとともに、人乳κ-かゼインのペプシン消化により生じるCGPにはアポトーシス誘導能があることや、牛乳κ-カゼインでも直接、トリプシン消化するとアポトーシス誘導ペプチドが生じることを明らかにした。
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